漢方薬について

漢方薬とは

漢方薬とは、天然物である生薬を材料として作られる薬です。漢方医学という中国を起源とする日本独自で発展した医学があり、その漢方医学の治療法の一つとして用いられるのが漢方薬です

漢方処方について

漢方薬と聞くと、一つの原料から一つの漢方薬が出来上がるというイメージを持つ方もおられると思います。実は、必ずしもそうとは限りません。例えば、風邪をひいたときに服用する「葛根湯(かっこんとう)」ですが、これは「葛根」という原料から作られているわけではありません。葛根・麻黄・桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草という7つの生薬の組合せからできているのです。
このように漢方薬の多くは複数の生薬の組合せからできており、その組み合わせを漢方処方といいます。この漢方処方は国内で認められているもので200種類以上あります。そして、その中から個人の症状にあわせて、漢方処方を選ぶことができます。

漢方処方について

実は身近な漢方薬

一般的にみなさんがドラッグストアー等で手にする薬の中にも、処方名は出ていませんが漢方処方が配合されている場合があります。
例えば「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」という処方は、肥満症や便秘症に対して用いられ、肥満改善・便秘解消に効果的であるとされる処方です。そうして販売されている薬の中に、製品名に「防風通聖散」という処方名は大きく出されてはいませんが、この処方が配合されている場合もあります。
このように身近に飲んでいる薬が漢方薬だった、ということもあるかもしれません。

「漢方医薬」と「西洋医薬」の違い

「漢方医薬」と「西洋医薬」の違い


なぜ今「漢方薬」なのか

「漢方」というと、「大昔の薬」、「効果が出るまで時間がかかる」といったイメージをされる方が多いのですが、決してそんな事はありません。現在では、西洋医学と漢方医学を組み合わせることにより、今まで治療が困難とされてきた疾患にも対応できるようになってきましたし、服用してから5分程度で効果が表れる、“即効性”のある処方もあります。また、漢方は、「証」という特徴的な概念があり、人それぞれの体質に合わせて処方が決まります。“病気”というよりも“人そのもの”の治療を得意とするのが漢方であり、漢方でなければ治せない病気もあるからこそ、今「漢方」に注目が集まっているのです。

高齢者の疾患に対して

高齢者の疾患は、様々な臓器が同時に機能低下する「多臓器疾患」になりやすい特徴があります。そのため、高齢者の治療は一つの症状にとらわれず、身体全体を診ることが重要になってくるのです。また、多くの病気を抱える高齢者は、その分それぞれの病気にあった薬が必要になりますし、副作用にも特に注意しなければなりません。実は、そんな時こそ漢方薬が役立つのです。漢方薬は、様々な生薬成分が配合された薬であり、患者様の体質に合ったものであれば、薬の種類を大幅に減らすことができます。例えば、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)という処方であれば、月経不順や更年期障害、産前産後の不調に用いられることが多いのですが、この処方には、血の巡りを良くする当帰(とうき)と川芎(せんきゅう)、痛みを和らげる芍薬(しゃくやく)、水分調節をする茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)、沢瀉(たくしゃ)の合計6種類の生薬が含まれています。このように漢方薬は、様々な効果がある天然物を配合しているため、身体に総合的に働きかけることで、身体が本来持っている「自然治癒力」を高め、結果的に薬の種類を減らすなど患者様の負担軽減にもつながるのです。

更年期症状(女性)に対して

女性における更年期とは、閉経前後の約5年間(合計10年程度)の事ですが、この時期に表れる体調の変化や不調を「更年期症状」といい、多くの場合、50歳前後がその時期にあたります。
主な原因は女性ホルモンの減少と言われていますが、症状は人によって様々であり、冷えやのぼせ、多汗や動悸、肥満、不眠、イライラ等の不調が起こります。このような症状に対して、西洋医学的な治療では、不足している女性ホルモンを補充し、精神的な症状改善のために精神安定剤や睡眠薬を処方するのが一般的です。一方、漢方医学的治療では、一つの症状に一種類の薬を処方するのではなく、患者様全体を総合的に診て処方します。顔色や皮膚の具合、話し方や声のはり、脈の強さや腹部の張り、詳細で的確な問診を基本とし、患者様に合った処方が決定されるのです。例えば、比較的体力があり、ほてりやのぼせが強い方には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、便秘があり月経前にイライラしやすい方は桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、冷えやめまい、頭重感を伴う方は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が処方される場合が多いのですが、更年期症状はその内容や程度については多種多様、また、その症状を悪化させる要因も人それぞれなのです。だからこそ、これらの要因までも考慮して処方される‘漢方’に今、注目が集まっているのです。

明確な西洋学的治療法が確立されていない疾患に対して

こむら返り

こむら返りとは、ふくらはぎに起こる筋痙攣の総称で、強い痛みを伴いますが、これも漢方薬が得意としている疾患のうちの一つです。筋痙攣の原因としては、過度な筋肉疲労、水分やミネラルの不足、神経系の異常などが考えられます。特に激しい運動の後や睡眠中に急に痙攣が起こり、収まった後も筋肉に違和感が残ること、また、痙攣のくせがついてしまうこともあります。最も起こりやすいのはふくらはぎですが、同様の症状が指や肩、首にも起こる場合があるといわれています。この様な症状に対してよく処方されるのが、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という処方です。芍薬(しゃくやく)と甘草(かんぞう)という2種類の生薬で構成されるシンプルな処方ですが、即効性があり、早ければ5分もかからず痙攣が収まります。こむら返りに対してこれ程効果のある西洋薬はないと言われています。
漢方薬には即効性がなく、じわじわと効いてくるもの、と誤って認識されている方は非常に多いですが、この例のように、漢方が西洋学的治療(合成新薬を用いた治療)と比べて即効性もあり、有効な場合もあるということがお分かりになるかと思います。

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患のうちの一つで、かゆみを伴う湿疹が、良くなったり悪くなったりを繰り返し、なかなか完治しにくい疾患です。主に湿潤型と乾燥型に分類されますが、その原因は、精神的ストレスや食生活の悪さ、ハウスダスト等、多岐に渡ります。西洋学的な治療としてはアレルギーを抑える抗ヒスタミン剤や、炎症を抑えるステロイド剤の塗布等の療法が中心になりますが、ステロイド剤は局所的な炎症を抑えるのには役立ちますが、長期使用による副作用や急にやめることによるリバウンド反応も起こる可能性があります。そこで役立つのが漢方薬です。患部がジュクジュクして赤みがある人は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や消風散(しょうふうさん)、さらに化膿が強い場合は十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)、皮膚が乾燥している人には温清飲(うんせいいん)や荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)など、患者様の体質にあった処方で、つらい症状とストレスを軽減しながら、再発しにくい治療を目指すことができるのです。

糖尿病

糖尿病には、膵臓のβ細胞が破壊されて起こるⅠ型と肥満など生活習慣が悪くなることによって起こるⅡ型があります。糖尿病が恐ろしいのは、進行してきますと、しびれやむくみ、痛み、頻尿、排尿困難、口渇など様々な合併症を起こし、ついには重篤な病気になってしまうからなのです。そのため、西洋学的療法のみでは、なかなか治療が難しい場合があります。そんな時に役に立つのが漢方なのです。しびれのある方には八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などが、口の渇きを伴う方には白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)や麦門冬湯(ばくもんどうとう)などが、その人それぞれの体質に合わせて処方されます。漢方のみで血糖を制御する事は難しいですが、合併症の緩和など、患者様の体調全般を良好に保つためには優れた薬といえるのです。

PageTop